彼女は、
「自分のことがわからない」
と、開口一番そう言った。
私は、
「こんなきれいな手をしてたんだ…」
と、心の中でつぶやいた。
華奢で繊細な美しい【手】。
乱暴に扱ったら一瞬で粉々に砕けてしまう。
これまで彼女が感じてきた恐怖は、いかほどだっただろう。
悲鳴をあげ、声の限りに助けを求めたことだろう。
ほんとうは、
もっと、もっと、大切に扱われなくてはならなかった【手】。
ほんとうは、
もっと、もっと、守られなくてはならなかった【手】。
でも、
誰もほんとうの彼女の姿に気づけなかった。
たくさん怖かったね。
たくさん痛かったね。
幼い頃を、思春期を、大人になってからをー、
彼女の過ごしてきた日々を思うと、胸が締め付けられる。
ごめんね。
私にできることなんて
きっと、なにもない。
だけど、私は確信している。
あなたが
ほんとうは、自分のことをよくよく分かっていることを。
近い将来、
安心して過ごす未来を
あなたが【手】にすることを。
あなたにぴったりの
素敵な名前を【手】に入れて、
美しいものに囲まれて、
晴れやかに笑う、
そのときが訪れますように。