動物が
非常に…異常に…苦手な私が、
春からずっと行きたいと思い続けている場所がある。
それは「動物園」。
ある動物にもう一度会って、
どうしても解明しておきたい「謎」があってね。
先日、
その思いが現実になった。
平日のお昼。
閑散とした園内。
ゲートをくぐると他の動物にはわき目もふらず、
ルートを逆走するように
お目当てのもとへと急ぐ。
私が会いたかったのは、
アムールトラ。
名前は「テン♂」
資料によれば、
【飼育員さんが嫌いで…(笑)
お客さんには愛想よくて、
寒さと雪が苦手】
だそう。
そんな彼、
来週12歳の誕生日を迎えるらしい。
調べてみたら
テンさん、ヒトでいうなら
50歳くらいのおじさんだった。
やだ、めちゃくちゃ親近感じゃないか…。
ガラス越しに対峙する、私と彼。
彼は、
仰向けに寝転がり
顔だけをこちらに向けている。
私は、
ガラスの仕切りにへばりつき
[1.5]の視力を駆使して彼の瞳を凝視している。
まばたきひとつせず
ガン見し合う私たち。
小さい頃から
「好きな動物は?」
この質問にいつも窮してきた。
「いない。全部こわい。」
こうとしか答えられないから。
適当に
「 いぬです。ねこです。ウサギです。」
なんて答えときゃいいのに、
融通のきかない、クソ真面目さがそんな「ウソ」を許さないんだよね。
でも、今の私なら
答えられるかも…。
5月、
テンさんに出会った時のこと。
大きな彼の姿が視界に入ってきた瞬間、
いつも動物に対して感じる、
恐怖…戦慄…嫌悪…そういう気絶しそうな負の感情が全く湧いてこなかった。
それどころか、
たった1枚の金網柵でしか隔てられていないのにも関わらず、
手柵に手をかけて目の前をゆったり歩く姿に心を奪われていた。
「こわくない」
動物に抱くこの初めての感覚に混乱した。
『トラは大丈夫なのか?
それとも、
テンさんが大丈夫なのか?』
あの日から
この「謎」が私の手の中に握られている。
そんなことを思い出しながら、
テンさんの柵の前にあるベンチでこの日記を書いていると、
隣のベンチで休憩されてた、
動物園ヘビーユーザーと思われるお姉さま二人が、
テンさんのことを
まるで子供の近況を報告し合うように話されているのが聞こえてきた。
「テンちゃんってねぇ~、
まぁ~小さな頃から
ほんっとびっくりするくらい
繊細で怖がりさんだったからねぇ~~。」
ははぁ~ん。
そういうことかぁ。
はいはい。わかりました。
お二人のおかげで、
私の「謎」は解けた。
にしても、
お姉さま方の動物愛、テンさんへの愛は本当に深くて、
しきりに彼の体調を心配されていた。
そりゃ、おじさんだもんね。
いろいろガタもきますよね。
トラにもヒトにも
等しく時間は刻まれていく。
あなたも私も
あとどれだけかなんてわからないけれど、
それぞれの居場所で
最後までふんばっていくしかないよね。
じっとこちらを見つめてくる彼にお別れを言って、
握ってた「謎」を手放した。
私の好きな動物は
テンさんです。
トラは怖いです。
これからも
私の動物嫌いは
きっと続いていく。